Travellin'Light

もう一人の僕が人に好かれようと笑顔を作りながら、おもしろい話を練り上げようと言葉遊びをしながら、好きでもない人と笑い合おうと苦心しながら、顔見知りの人に優しさを届けようとしながら、毎日を忙しそうに歩き回っている。

次の駅しか見えない彼と、路線図を持った僕は心の中でそれなりに上手くやってきたらしい。僕は黙って座ったままで、旅をするための風を待っている。

その風はきっとどこか冷たくて、もう一人の僕の努力なんか、旅立ちの時が来れば、水の泡となって消えて行く。それでいいんだと彼も何となく思っているらしいけれど、今日もまた彼は慌ただしくて、僕らはどこに行くにしても、手を取り合うことはないまでも、同じ身体で歩いているから、僕も疲れてしまうんだ。

そうそう、街では僕は嫌われ者らしい。「近頃の若者は」と電車内で怒られたり、自転車をポリスマンに止められたり。多分目につくんだろうな。もう一人の僕はその度に傷付いて、ぐだぐだと、頭を文字で満たそうとするんだ。僕はそれを笑って、否定も肯定もせずにただ、旅をするための風を待っている。

文字を書いている限り僕は消えない。塔の向こうに星がある限り。地図上には何重にも赤マーカーでぐるぐる丸が書かれている。僕はその星の色を知らない代わりに、名前を知っている。もう一人の僕がその名前を急かして聞こうとするけれど、それを遠ざけるように煙草をふかして、僕は風を待っている。