膝を折り、水を飲んで

夏の連載2018 (7/4〜8/3)

おとなになる前に2

駅を降りると知らない景色がある場所に、明日から変わっていくんだろう。体全部を飲み込むような、大きな流れにやられて。その知らなさはいつものとは違うんだ。知らない駅の改札の向こう側を、僕たちは昔、自分の知っていることばや、自分の知っているものの形とは違ったものが作っているように思えて、その形の分からなさに怯えながら、同時にワクワクの歯車をギュインギュイン回していた。生きていることを否定することなんて、考えもしなかったな。

明日からの景色はどんなだろうね。きっと何処かで見たことのある、もう形の分かっているものの寄せ集めで、日本語のバリバリ通じる、こことはちょっとだけ人の流れの速さと建物の高さが違うだけの街なんだろうな。その街でまた明日から生きていけば、夕日が綺麗に見える場所だとか、誰にも見つからず本を読めるベンチとか、静かな雰囲気の洋食屋とかが段々と見つかって、まるで、明確になりすぎた世界から逃げるようにしながら、その街を好きになっていったりするのだろう。

 

わかれば分かるほど安心感が募るのだけれど、同時にそこから逃げたくなるから、分からないままでいたいと思いながらも、解像度の上がっていく世界には逆らえない。

大きな流れの中に埋もれながら何ができるだろうね。もう昔とは違うんだけど、まだ人生はあと4倍くらい、事故なくいけばあるらしいよ。

髪の白いあの人たちは、どうやって生きていったんだろうね。どうしてあんなに子供みたいな笑顔を持ちながら、これからを生きていけたんだろう。

お金の価値ばかりがわかっていく。豊かさの意味が遠ざかっていく。ものの形が変わらなくなっていく。何かから逃げるように静かな洋食屋に座って、冷水についた露の垂れるのを、何の気なしに見守っている。