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タルイのはてなブログ

タルイのブログです

葉月さんとボク 1

  葉月さんが水族館に連れて行ってくれたのは、もう7年くらい前のことになる。ボクはその頃まだ小学四年生で、新しく始まった理科の授業のことなんかを自慢げに話していたような気がする。葉月さんは確かもう大学生になっていて、ボクのことをよくどこかへ連れて行ってくれた。

 休日の水族館には家族連れが大勢いて、近所のお姉さんであるとはいえ女の人と二人で水族館を歩いている自分が、少しだけ大人になったような、それでいて何かを間違えているような変な気持ちがした。水槽と自分は分厚いガラスで隔てられていたけれど、もう一段階ボクと魚の間には何か膜のようなものが張られているみたいで、あたりの輪郭は心なしかぼうっとぼやけていた。

「なんか魚の顔って、人間の顔に似ているね。」目の前で泳ぐ大きなボラを見てクラスメイトの女の子に似ていると思いながらボクは呟いた。

「うーーん、まあ、私もそう思うけれど」葉月さんの声は芯がきちんとあって、それでいて優しい。

「あんまり誰かに言わないほうがいいよ、「君の顔は魚に似ているよ」なんて」

「お姉さんに似ている魚を探そう」

「私はそういうのをやめなって言ってるんだけれどね。」

「でも魚は綺麗だよ」

「うん、まあ、お姉さんもそう思う。」お姉さんは諦めたように笑う。「あっちにペンギンがいるみたいだよ」

「お姉さんはペンギンに似ているだろうか」

「少年、どうだろう。果たして私はあんなにお腹が出ているかな。」

「でもペンギンは可愛い顔をしてるよ」

「君は女の子を傷付ける大人になりそうでお姉さんは心配だよ。しかしどうだ、どうなんだろう、ペンギンに似ているっていうのは…」葉月さんは頭を抱える。

「行こう。」ボクは少しだけ良い気分になる。

「うん。行こう、少年。」葉月さんは大股で先に行く。 

 思い返してみればやっぱり、ボク達はあの頃随分と仲が良かったと思う。