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Here Comes The Sun and I Say

タルイのブログです

Impressionism

海が混じり合うように折り重なって、静かに時を刻んでいる。両手を空に伸ばしピンと背中を張る彼女の口元の、太陽を直に浴びた笑みに目が眩んだ。人気のない臨海公園は、やけに近未来的な街灯の均等で果てのない群列や、月の満ち欠けを示す儀式めいたオブジェや、徹底して汚れのない人工デッキによって人々の生きる時間軸からずれてしまったかのように、その潔癖さの中に単調な虚しさを含んでいた。海だけが、世界唯一の生き物のようにサ行の濁音で流動する時を刻んでいる。

「ねえ、いつもここで何してるの?」と彼女は問いかけながら、世界中の生命を掻き集めたような深呼吸をする。

「何って、散歩か読書か、そんなものです」

彼女は嬉しそうに笑う。

「素敵だね。海星くん。」

「名前、なんで知ってるの」

「だって同じクラスじゃない」

少し強く風が吹く。彼女が横目に俯いて乱れる髪を軽く押さえた。「わっ」と、まるで自らの内にある陰鬱な悩みが露わになるのを恥じるように。透き通るほど長い睫毛には潮騒が反射して一瞬間微かに輝いた。それはあまりに現実から遠のいていて、僕はなんだか風に騙されているような気がする。……

「深浦…深浦仁衣菜」

「なんで知ってるの?」

「…同じクラスだから」躊躇いがちに言う僕に深浦さんは意外にも少し照れたらしく、海の鳴る方へその目を泳がせた。

「海星くん、クラスメイトの名前とか知ってるんだ」深浦さんは驚きを隠すことなく笑う。

「だっていつも本とにらめっこして、友達なんて要らないって顔してる。」

彼女はそんな風にしか生きることのできない僕の弱さを見通したように、覗き込むように、顔のパーツを探るように僕のそばに近づいてくる。太陽が今日ばかりは極彩色を放っているのだろうか、認識器官そのものがより敏感なものへと入れ替えられたかのかもしれない、受け流しやり過ごしてきた外側の世界、それ自体が今日は不思議とカラフルに見えた。

「いつもってこともないだろうに」

深浦仁衣菜。同じ窓際の三つ前の席に座る女の子。いつも外をぼんやりと見ている、少しピントのずれた、まるで地上以外の場所を知っているかのような目をした女の子。クラスでは名前を省略されて「フラニー」と呼ばれている。

「ねえ、少し歩かない?」彼女が後ろに組んだ手の先で、チョイチョイっと僕を呼ぶ。清潔な元気が飛び跳ねている。

僕は腰をあげる。彼女と少しの間隔を置いてついていく。文庫本にしおりを挟むことを忘れたことを思い出す。

そんな小さな後悔も、こんな日ばかりは止めてしまおう。