11/24 切れ端

 全てをゼロに戻すような雪が降った。複雑に絡まった人との関わりを、絶え間なく波打つ感情を全てリセットするような雪だった。街は白く染まっていく。白で上書きされていく。人工的に植えられた道路脇の植物も、選挙戦のポスターも其処にはない。意味は白に上書きされて、全てはゼロに戻っていく。そしてあとには形態だけが残る。
 車道に落ちた白は透明な水溜りになる。車達は熱を帯びてどこかへ向かっていく。白が溶ける。溶けた白に落ちた白が溶ける。透明は領域を広げて赤信号を写す。禁止の赤は街唯一の色彩になる。禁止は反射を受けて直線的に伸びていく。禁止は時折青になり進行を許可する。バスは断続的に進行を許可され、そしてまた禁止される。
 つり革と共に体を揺られながら、ただひたすらに音楽を聴いていた。イヤホンから流れる音楽は、心地よい音量で、押し付けがましくなく、劇的でもなく、只少し先を予測させないような旋律を落としていく。それは自分の内側にだけ響く個人的な体験となって僕の意識に響いていた。意識は眠気を僅かに孕んでまどろんでいる。意識の中にいる僕はまだ動くことを拒んでいる。朝を上手く整えることが出来ていないからだ。意識を目覚めさせるには然るべき順序がある。それは個々人に決められた体内リズムのようなものだ。リズムに乗り切れていない内側の世界は輪郭がぼやけたままで、その世界を少しずつ、音楽が整えている。
 内側の世界が酷く冷えている。雪は内側にもしんしんと降っていた。通り過ぎていく街のように、僕の意識もまた、いつも以上に意味を失っている。何故生まれてきたのだとか、何故笑うのだとか。雪が全てを白に還していく。バスの中は静けさに包まれたまま、雪解けはまだ遠く、僕はただひたすらに、旋律の読めない音楽を聴く。