フクラム国

タルイのブログです

11/10 切れ端

 僕は彼女が裸になる所を想像してみた。それは非常に緩やかな速度を持ちながらも、とても好意的に検討することのできる事柄だった。極めて静かに、まるで1960年代のハガキばかりが充実している雑貨屋を何の気無しに覗いた時みたいに。始めに、果たしてそれはどんな状況下で起こるものなのかということについて僕は空想を始めた。ただ、ありふれた考えから生まれてくるような情景、すなわち浴槽やホテルなどに彼女が佇んでいるのはあまりふさわしい形とは思えなかった。彼女がこの上なくセンスのいい香水をつけていたとしても、背後にサティの音楽が流れていたとしてもそれは変わらないだろう。場所には何かしらの外してはいけない筋のようなものが確かに存在していて、彼女が裸になるためには其処はあまりにも筋違いに思える。僕は多分、彼女のまるで森林の裏側のような静けさが生み出す言いようのない「たゆたい」のようなものに心を惹かれているのであって、それは裸という光景とやもすると対立するものであるらしかった。裸と卑猥さを結びつけるための何かしらの部品が今一つ彼女には欠けていた。彼女を様々な妄想に絡ませこれ以上ないほど猥褻な状況に追い込む人間的な残忍さは無論僕の中にもあるはずで、しかし裸になるという行為は、そこから距離を置いているようであり、結局のところ、僕は彼女がたった一人で、真夜中に布団の中でゴソゴソと衣服を脱いでいる情景をどうにかほんのりと想定することだけしか出来なかった。そんな卑猥とは一定の距離を置いた妄想はひょっとして彼女の裸を見たことがない故に生まれた想像力不足の産物なのかもしれないけれど、もっと核心的なところで(場所の持つ筋のようなものを外さないために)彼女の裸は隠されている必要があった。彼女は真っ暗な部屋の中で、一人何かから身を隠すようにして衣服を脱いでいて欲しかった。それは羽毛布団の中で極めて内密に行われ、世界中の誰もが気づくことがない。彼女は世界中に隠された脱皮を静かに終える。そこには僅かに官能的な香りが介入する余韻がある。部屋にはフォーレノクターンが流れていて、彼女に暗闇が馴染んでいくと、まるで彼女は闇を羽織っているみたいに見える。そんな光景が、彼女の裸にはどうしても不可欠だった。