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Here Comes The Sun and I Say

タルイのブログです

灯り 1

 8月5日は、湖の周りに、蛍が出る。そればかりが頭にあった。

 当時小学2年生だった私は、平生夜8時以降の外出を禁止されていた。8月になってからというもの、格好の餌を与えられた少年の想像力は、光筋が暗闇を駆けて行く様を幾度となく思い描いた。部屋に生まれる心地良き別世界。

 8月5日。私は変に礼儀正しく食事を進めながら、その空想を追いかける心構えを淡々と整えていく。と言うのも、夢として揺れる黄金の煌きは、手の届く範囲のものへと、現実的な自然現象へと、姿を変えて来つつあったのだ。

  両親は何方もここにはいなかった。決して初めてのことはなく、食事は一人だった。その頃の私はただ、職業柄家を留守にしがちな両親のことを、「そういうもの」としてみなしていたから、彼らがどこにいるのか、なんて、さしたる興味も向かなかった。確かなことは、8時以降の外出を「なかったこと」に出来る、というただそれだけのことで。

 リビングの静けさは、心持ちを整える為には十分すぎる安らぎを持っていて、お気に入りのスニーカーに足を通すまでには10分とかかることなく。

 青色のそれは闇によく沈んだ。大きめの懐中電灯を抱きかかえるようにして飛び出した世界は、余りにも自由で、余りにも広く、余りにも知らない空気を漂わせている。

 湖へは、たった20分ほど。私の抑えきれぬ好奇心は筋肉を焦がすように刺激した。背後から追いかけるように風が迫り来る中で、揺れる木々の内緒話や、耳先を触るコウモリや小動物の疾走がリアルなものとして五感に触れる。

 やがて直ぐに家が見えなくなった。「始まってしまった。」私の中の誰かが、そんな風に私を促した。