フクラム国

タルイのブログです

Portal 9-1 Imaginary Friends

  起きて

 誰かが言ったような気がする。

 優しい、女の人の声だ。

 

 カーテンがゆったりと揺れていた。

 外から心地の良い、凹凸をならすような風が吹いている。無神経な都会の匂いは、嗅ぎ慣れた筈のものながら、今日ばかりはよそよそしい。

 じわっと汗をかいた寝間着をそそくさと投げ出すと、洗剤の香りがほのかに香る長そでに手を通した。相変わらず靡く今日の風は、幾らか執拗に、僕に迫る。僕の中にある何かが、気に食わないとでもいうかのように。

 

 長い夢を見ていたみたいだ。感慨の渦のようなものだけが、瞼の裏に残滓を散りばめている。忘却は決まって、想起を振り払う。

 どんな夢を見ていたのだっけ。

 

 外には春が始まっている。新しい毎日に塗り変わっている。

 僕はどんな風に生きてきたのだっけ。

 僕はどんな風に生きていくのだろう。

 

 

 枕元に、白くて小さなかけらが落ちていた。不思議とそれは僅かな熱を持っていて、静かな記憶の海をそこに現出させた。

 

 確かに僕には友達がいた。不器用に仲の良い、世界の終わりを共に眺めた友達が。

 春は新しい年度を告げる一陣の風となって、友人の影を思い出させない。そんな中でも、彼の青色の雰囲気だけは名付け難い感情のように輪郭を持っていて、もどかしさが、せわしなく切なかった。どうやら僕は、もう君とは、会えないみたいだ。

 

 街では忙しく朝がネジを巻いている。

 中央線は今日も満員で、僕は総武線の各駅停車でゆっくりと秋葉原へ出る。

 上野駅に着けば、多国籍な観光と、修学旅行の制服と、頭をさげる募金箱が今日も待っている。

 学校は意味のない挨拶をばらまく表面的な社交界だ。

 

 さてさて、僕も今日からまた、この世界で生きていこうか。

 

(終)