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タルイのはてなブログ

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Portal 6-3 Good Shoes

銀色の列車

 

 肌はヒリヒリと熱く、肺は酷く薄い酸素で呼吸を繰り返した。星が爆散する轟音と、焼け焦げる草原の匂いと、煌々と揺れる炎の柱とが五感に絶え間なく迫る。か弱い体を持つ僕は、ちっぽけであるどころか、まるで教室に迷い込んだアリのような場違いさを感じて、本能的な恐怖に合わせて、絶え間ない焦燥を抱える。

 銀色の列車は僕を待っていた。

 

 徐々に距離を詰めて輪郭を定かにしたその銀色は、この破滅の中では尚一層美しく、余りにも美しく、周囲の音を遮断した。焼けた肌の痛みも、複雑に絡み混んで解決することのない胸中も、その美しさに凍ってしまって。焦ることもできずに、なんらかの強制力に従って列車に足を入れた。列車の中には案の定、心地の良い冷気が充満していた。

 

 窓の外を見れば、街は一つの炎となって燃え上がっていた。いつまでも子供でいたいと、すがりつく僕が作り上げたユートピアが、こんな風にして、滅びていく。沢山の知人が、クラスメイトが、炎の中に消えていく。どうしても消えて欲しくなかった人もまた、消えていく。ゴルゴダの丘も、ひまわり畑も、あの日の思い出も、多分僕は、忘れてしまうのだろう。

 多分、イワンのことも。

 途端に僕らの街に戻りたくなって、けれど外を見れば、もう僕らの街は、そこには無くなってしまっていて。

 冷えた車内は安堵を与え、それが皮肉なほど猛烈な眠気を連れてきた。

 記憶が最後の一周を巡って、この街の海にぽとりぽとりと落ちていく。

 僕は名残惜しくも、それを、認めようとする。

 記憶は最後の一周を巡る…

 

 14歳の頃から、イワンはいつもそんな風だった。人生の道程を悟っているようで、世界それ自体を俯瞰して行為を選択しているようで、どれだけの事をしても、辿り着く場所は分かっているから何の驚きもないというような、一生への諦観を常に携えていた。

 

 そして、僕とイワンは仲が良かった。これだけは昔から変わらないものと思える。「歩こう」と言うと、比較的素直に、彼は、「はい」といたずらっぽく呟く。言葉数の少ない逍遥の中では、沈黙が、其処彼処に、当たり障りのない心地よさをもたらす。僕とイワンは、そのくらいには確かな関係を築いていた。

 

 思えば、イワンといるときは、決まって僕の方から話し始めた。案外僕と彼の間にある、本質的な何かは、そこら辺にあるのかもしれなかった。