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タルイのはてなブログ

タルイのブログです

Portal 5-1 くじらの骨

 君がこの街を去るというのなら

 僕の気持ちなんてものは、どうでもいいのかもしれない

 夏が過ぎて、冬になり、また次の季節が始まる前に

 君はこの街を去るというのだから

 

「見送りありがとう。」フラニーは幾らか申し訳なさそうに言う。僕にはそれが他人行儀に見え、お互いの距離感を、僕だけが測り間違えているように思う。

 街は白ずんでいる。明け方に弱い人類は、夜明けを尊く思いながらそれとの邂逅を疎む。夜を怖がるくせに、まるで本当に孤独なのは、太陽が昇っている頃だと言わんばかりに。

 

「世界で僕らだけが起きているみたいだ」

 

 坂の上から、降りることが怖かった。本当に彼女と別れるのだとしたら、せめて何か、笑いあってからにしたかった。申し訳なさそうにする彼女の顔には、えくぼよりもむしろ憂鬱が浮かんでいて、朝日は皮肉なほどそれを美しく映した。僕の顔は、彼女にどう見えているのだろう。決して美しくも格好良くもない僕の顔は、彼女にとって、酷く意味のないものに見えているんじゃないだろうか。

 

 下り坂を、ブレーキをかけながら下っていく。精一杯かけてはみたのだけれど、逆に危ないような気がして、途中から流されるように降りていった。

 僕は歌を口ずさむ。よくイワンの歌っている歌だ。

「ゆっくり 変わってゆくのは」

 背中にじんわりと、フラニーの暖かさが感じられる。か細いけれど確かな温もり。

「やわらかな風景と」

追い風は僕らを後押しするかのようで

「流れる雲みたいな 季節と」

駅が見えてきた。

「単純な人の心と」

駅には銀色の電車がじっと待っていた

「何も見えない明日と」

他でもない君のことを。

「ねえ」

「ここにいる僕と」

君と出会ったということが、

 

「旅をしませんか」

 

僕にとって、どれほどのことか。