フクラム国

タルイのブログです

Portal 4-5 Swimming

8.

 夜は静かに訪れた。ランプの灯りと、小さめの焚き火とは、街の色とりどりのネオンに比べると遥かに質素で、自然で、簡潔な灯火だった。ぼんやりと闇に浮かんだ体躯は思いの外大きな影で、そのことは「大人になっている」ということを漠然と僕らに悟らせているようでもあって。

「星が燃えているみたいだ」焚き火にポツリとイワンが言う。

「綺麗だね」リリーの頭を撫でるような声。

ラニーはくじらの骨を火にかざして、橙色に色づく真白な塊をどこか切なげに見ている。

「うん。綺麗だ。」僕が呟くと会話は途切れて、パチパチという音と、控えめな波音と、消えゆくような虫の音が辺りを包んだ。このひと時は二度と帰ってこないような気がして、それ故にか、辺りの環境音は、どうしようも無く愛おしい音楽に聞こえた。耳を傾ければ、だんだんとまぶたが重くなった。

 意識がうとうとと船を漕ぐ。夜風は決して温くはなかったのだけれど、体の中のどこか内側の辺りはぽかぽかと暖かかった。このまま寝てしまうのは、どうも勿体無く感じて、もう少し起きていよう、起きていようと思いながら、しかしどうしようも無く、ブルーシートの上に寝転がる。夏が遠ざかっていく。最後の夏が遠ざかっていく。ただ抗えないほどに、今は心地が良い……

 

9.

 まだ夜は明けていなかった。もしかしたらまだ深まっていく途中なのかもしれないし、もしかしたらもうそろそろ太陽に空を受け渡すつもりでいるのかもしれないけれど、しかし何れにせよ確かなのはまだ夜が明けていないということで、そして僕は割ときちんと目覚めてしまったということだった。

 一丁散歩にでも行こうと思いを馳せ開ききらない目をこすりこすり起き上がった際に、果たしてフラニーの姿がどこにも見えないのに気がついた。あれ?と周囲を見渡す。すると直ぐに、浜辺に体育館座りしている少女の姿が見えた。イワンもリリーも澄んだ寝息を立てていて、ただ僕は彼女のために目を覚ましたのかもしれないとそんな理屈も何もない直感を強引に信じながら、半ば必然であるかのように、彼女の元へ近寄って行った。

 案の定彼女は音も無く泣いていた。煌々と輝く半月と星々が横顔を照らして、赤く腫れた目尻をぼんやりと浮き上がらせていた。

「ヘンリー?」

「うん。ねれないの?」

「ねれない。ヘンリーは?」

「うん、まあ僕も、そんなところだよ」

……沈黙と波音が夜に馴染む。

「今日、くじらの骨を拾ったじゃない?」

「うん。」彼女は儚い目で黒く澄んだ海を眺めながら、話し始めた。

「私、この街に来る前何をしていたのか、思い出した気がするの…」

 

(続)