読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

タルイのはてなブログ

タルイのブログです

Portal 4-4 Swimming

6.

 ゴポゴポゴポ……

 海が昔から怖かった。僅かにぼやけた海底、少し掻き分ければ大きな丸い目がギロリとこちらを睨んでいそうな海草群、本当に人間に害がないのか心配になるようなイソギンチャク、突如現れる巨大な魚。決まってやけに大きく見えた。こちらへ向かってくることなどないのだけれど、現実的な距離として僕と彼は繋がっていて、加えて慌てても逃げることのできない水中という空間がおそれを生み出す。その日もまた、海は知らぬ世界を、神秘という名の下に、恐怖的に連れてきていた。ただ僕の隣にはフラニーがいて、海底に何か光ったものがあるとなんの迷いもなく一気に潜水していく様は僕を幾らか安堵させもし、驚かせてくれた。水中でも華奢に動き回る彼女の、この海という場所をアウェイではなくホームと感じている感覚は、新鮮で。

 恐がることをやめるのは、つまり無防備になるということで、それは多くの場合間違いである。しかしながら彼女と一緒なら、少しくらい気を楽にしてもいいのかもしれないと、海の中でそんな風に感じながら、はしゃぎまわる彼女のことをもしかしたら慕っているのかもしれないと、俄かに湧き出るそんな感情を発見して、僅かに、しかし急速に、彼女の微笑みの思い出が美化されていくのを、感じざるを得なかった。

 

7.

 夕日が落ちかかるまでイワンは寝ていた。起きていたのかもしれないけれど、横たわっていることに、一番の価値を感じ続けているようだった。

 リリーはというと、砂浜に上がった様々なものを大切そうに拾っては、瓶にいれたり、イワンのそばにまるでお供え物のようにして置き、手を合わせる素振りをしたり(イワン神信仰)している。

「あーーー!!」丁度日の落ちる頃、フラニーが大きな声を上げた。「どしたどした」リリーと僕が詰め掛けると、白くて小さなかけらを掲げている。

「くじらの骨だ」

「なんだとお!」リリーの叫び声が世界に響く。亜麻色の髪が子供みたいに輝いている。

「くじらの骨だ!」

「なんでわかるの」不思議がる僕には「絶対そう。これはくじらの骨」と、まるでさしたる理由などないかのように振る舞う。「懐かしいなあ」フラニーは呟いた。そしてふと、その懐かしい、という言葉に引き摺られるようにして、何か不安定な表情を見せた。ただそれはほんの一瞬のことで、すぐにまた、大事そうに小さなかけらを愛でては、「くじらの骨だあ」と、愛おしそうに目をとろけさせていた。

 

 (続)