フクラム国

タルイのブログです

Portal 4-3 Swimming

4.

 当日は最後にふさわしく、良く晴れた。僕らは総勢4名でフィナーレを締めくくろうと試みていたけれど、しかし自転車所持者は2人にとどまっていて、仕方なく、危険極まりない二人乗りという手段を敢行する。それなりの物量を持った荷物を不安定に背負いながら海岸へと漕ぎ出せば、ふらつく度に背後でフラニーががしゃがしゃと笑い、それがリリーに伝染すると、太陽まで届きそうな騒ぎになった。不安定でも確かに僕らは段々と潮の香りに近づいていき、緩やかな坂を下っていく。加速度的に上がっていく車輪の速度は、頬杖をついて過ごす毎日への、押し寄せる現実への、反吐がでるような社会への、はっきりとした反抗であり、逃亡であって、僕らは何も臆することなく、ただ狂ったように笑い喚いて坂を下りることができた。

 疲れも、悲しみも、やもすると喜びまでも、道路に落としてしまったようで。僕らの絶叫はまるで断末魔のように、同時に切実な祈りのように、太陽へと届いていくように思えた。……

 

5.

 望んでいた場所へたどり着いたのは正午を少し過ぎた頃だった。はしゃいでいたはずのフラニーとリリーはしかしながらまるで元気で、普段運動なんてまるっきりしていない僕とイワンはゼエゼエと声を荒げながら、ふくらはぎの突っ張るような痛みを両手で揉みほぐしていた。

 そこはちょうどゴルゴダの丘とは逆の方角にある岩場に囲まれた浜辺というべきところで、兎にも角にも、恐ろしいくらい人が来なかった。元々この街の人間は中心街のネオンを熱量に毎日を完結させていく人がほとんどだから、海へ行こうだとか、ちょっと街の喧騒から遠ざかろうなんて思想は、例えば定食屋さんでお茶だけを頼む、というような理解しがたい不自然さを持つものだった。勿論そんな感覚は僕にもあったけれど、面白いくらい中心街の喧騒は肌に合わなくて、僕たちが中心街を嫌がるのは、どうもなにか生理的な嫌悪感に由来しているように思えた。

「泳ぐぞ!」フラニーの声が砂浜に響く。イワンもリリーも無言で僕の方を見て、「自分は泳ぐ気がないのだけれど彼女一人でいかせるのは何かと不安だから一緒にお前が付いて行ってやれ」という的確な伝達意思をもった目線を突き刺した。言い返す前にはもうリリーはしゃがみこんで貝殻を探しはじめ、イワンはブルーシートの上に大儀そうに転がり目を閉じた。

「泳ぐぞ!」仕方なしに僕も大声を出す。一瞬びっくりしたようなフラニーの顔には、すぐに柔和な微笑みがやってきて、それが優しく何かを締め付けた。

 駆け出した彼女は突然に、どうしようもなく眩しい何かに包み込まれる。よく見るとそれは海だった。どこまでも反射する陽光のきらめきに、まるで星が燃えているようだと思いながら、急ぐでもなくゆっくりと衣服を脱いでいく。紺色のゴーグルをかけると、燃えていた星は一気に波に埋もれてしまって、なんだか現実との間に大きなガラス壁ができているらしく感じた。なんとなくの気持ち悪さを感じた僕は頭をきつく締め付けるゴーグルを外してみたのだけれど、景色は相変わらず、現実とはどこか違う所のものであるかのように感じられるのであった。……

(続)