読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

タルイのはてなブログ

タルイのブログです

Portal 4-2 Swimming

3.

 海へ行こうと決まったその日、星が空よりも明るくなった頃に僕らは学校を後にして、晩御飯の香りが漂う帰り道を、いくらかゆっくりと歩いた。次の曲がり角でリリーが、交差点でイワンが、と、そんな風に一人一人自分の家へと帰っていく様は、儚くもありながら、どことなく自然で心地が良かった。

 さしてどうということもなし彼らを見送ると、後には僕とフラニーと、他には少しのぎこちなさが残った。決して言葉を発することを強制されるような感じではないのだけれど、商店街に近づくにつれて喧騒を増す人影は幾らか容赦なく僕らに干渉していたから、何か話題を切り出して喧騒への膜のようなものを作るべきなのかもしれないと、そんなことを思いながら、しかし実行に移すことなく、ただぼんやりと時の移るのを待つことにしていた。

「転校してきたときに」ふと、彼女が口を開いた。僕にとってそれは突然のことだったけれど、彼女は随分と前からその話題を準備していたようだった。

「よくわかっていなかったの。何故この街にいるのかも、何故学校に行かなきゃならないのかも、もっと言えば、何故自分がここにいるのかも」そしてそれは今でもわからない、と彼女は続けた。いつもみたいにふにゃふにゃと笑っているようで、しかし目尻には彼女特有の冷たさがあり、それが言いようもなく美しい。

「僕もそうだ」とっさに呟いた。フラニーの話は、何か彼女の中核をさらけ出すようなものであり、それはリリーの転校とどうやら無関係ではないようであった。しかしまあ、自分の居場所だとか、その意味だとか、何故自分がこの街にいるのか、なんて、そんなことは考えてもあまり意味のないことのようにも思えて。

「何故この街に来たのか、それはフラニーが一番分かっていることではなくて?」

「それがよくわかんないのね」フラニーは笑った。えくぼには空虚さがわずかに残る。

「フラニーは、どうやって電車に乗ったの」浜辺のあの駅に電車が来るのは本当に稀なことで、果たしてどのようにしてこの街へ来るのか、そしてこの街から出るのか、僕は単純な疑問を彼女に投げかけた。

「うーん、わかんないっ」彼女は特に隠すというふうもなく笑って、それきり口を閉ざすと、もう、これ以上話すつもりはないと見えて、強引に話題を続けることにも一抹の億劫さを感じた僕は、すんなりと口を閉ざした。

 何故この場所にいるのだとか、そういった何故は、単純すぎるがゆえに、自らが意識できる問題としてはいくらか難しすぎるように僕には思えて。

 しかしながらあの日彼女が見せた「なんで」の入り口は、しっかりと僕の意識の中に、鍵付きの扉を形作っていた。……