Portal 3-1 Freud

1.

 居住地から見える星々は硝子の粒子だ。空虚な砂子みたいに、光を内包することなく反射している。地上には、冷え切った大気がずっしりと沈殿して、呼吸が生む真っ白な息は、大気をほんの少し可視化すると、矮小な存在をぽっかりと浮かび上がらせた。冬には死が身近にある。ヒューイは肌に孤独を感じて、赤色のマフラーにしっかりと顔を埋めた。

 季節が凍らせる厳然とした夜景は、虚しいほどのものだった。商店街に向かう足が何時の間にか心臓を離れ冬に殺されるのを感じながら、一先ずは、背後に迫る季節から遠ざかろうと、少しだけ歩を速めた。

 やがて踏み入れた商店街は夜こそ騒がしく、ネオンが交互に点滅する様は、さながら手の込んだ花火のようだ。気品もなく暴れ狂う光たちに、星々は無関心を透徹して、破廉恥な行為を見放していた。何時だってこうだから、居心地なんて却っていいくらいさ。意味もなく笑う酔いの回ったネクタイ達と、命乞い混じりの縋りを繰り返す娼婦の鳴き声と、路地裏の暴力的な打撃音はこの街にゴキブリの如く繁栄しながら、地べたを這いずり回っている。

 

 キチガイたちがゴミ溜めのように集まって、この街は回っていた。

 

 一方で上方に目を見やると、遠くないところで毒のような紫色のキリンが安っぽい電飾看板を壊していた。冬と同時に現れたそれは、星の遣いだろうか、生命力をまるで持たずして、淡々と、争う暇もなく、その目的すら明かさずに騒がしさを削っていく。今日もまた、地を揺らす轟音が街に劈いて、まるで凍結した薔薇を握りつぶすみたいに、記憶に残る風景を殺害していた。

 

 「秩序というやつさ」そうオジジは言った。

 

2.

 今日もオジジは東公園にいた。

「オジジ、元気?」打ち上げられたように倒れている老人は、浜辺の魚達よりも遥かに死に擬態している。

「ん、ヒューイか。若者は寝たらどうだ」

「そのセリフそのまま返すよ。ジジイは死んだらどうだ」

 オジジが気まぐれな顔をして姿を起こすと、ヒューイは眼鏡をゆっくりと上げた。

「三番勝負」オジジは既に碁盤を布団の中から担ぎ出している。

「萎びた命にそこまで付き合ってる暇はないよ」

オジジは意地悪く笑う。

「お?棄権か?構わんとも」

「1日一試合でいこう」

「よしきた」

 黒々しい烏が見物にやってきた。足にクソみたいに汚れた包帯がついてる。オジジの1番の話し相手らしい。

 碁石はオジジが黒で、ヒューイは白だった。

タン……

 

タン…

 

 

タン……

 

「学校はどうなんだ」

タン……

「それなりだよ」

タン…

 

タン…

「友達は」

 

タン……

 

「二人ね、少し自分の話をした」

 

タン…

「珍しいな」

タン…

 

 

タン……

 

「彼らの顔を見ればわかる」

タン……

 

タン…

「残される人間の顔をしている」

タン…

「ワシはどんな顔じゃろうか」

 

タン

「野暮なことを聞かないでくれよ。僕からしてみれば、あんたはとっくに死んでるはずなんだ」

 

タン…

 

タン…

 

 

 

タン…

 

 

タン…

 

 

 

「ワシの勝ち」

(続)