フクラム国

タルイのブログです

Portal 2-2 Kite

2.
 今日も彼女はそこで絵を描いていた。
 僕らの街を通る唯一の線路は、砂浜と海を渡って他の街へと通じている。こんな世界の隅っこみたいな場所にそうひっきりなしに電車が訪れるわけもなく、時刻表というものなんて存在していないから、この街に住んでいる僕自身も、電車が走行しているのを見たのは僅か一度きりである。やもするとあの一回さえも、夢であるような気がしてくるほどだ。ただこの春に他の街から転校生が来たことは確かだし、その転校生、フラニーは比較的話しやすい女の子だったから、この街と他の街を唯一つなげる電車のことについて、今度話を聞いてみようとも思う。ただ、それを単純に億劫だとも思う。すぐに忘れているだろうな、多分。
 河川敷の上を、芯の細いシャープペンシルで描いたような橋が架かって、線路を彼岸へと、海へと繋いでいた。灰色のコンクリートが露骨に人工的な匂いを景色に重ねる。ただ、灰色の表面をよく見ると、不器用な濃淡があり、そこには奇妙な人間味があった。
 今日も堤防の上から足を垂らし、難しい顔をして絵筆を握っているリリーが見えた。白色のタンクトップで夏を全身に浴びながら、亜麻色の髪を束ねることも忘れて、吸い込まれるように、クロッキー帳にのめり込む。堤防から転がり落ちてしまいそうなほどに。わあわあはしゃぎながら転がり落ちて、川辺まで来るとピンとポーズをし、「デデン!」と叫ぶ、そんな馬鹿をやっているリリーが見える。彼女は多分、一人の時にはそんな風に生きようとしているはずだ。
 彼女の周りには誰もいなくて、何もなくて、ただ、彼女だけがその空間で息をしているようだった。
 垂れてくる亜麻色の髪の毛を耳にかける。夏がほのかに反射している。
(続)