Portal 1-4 さよならフロンティア

5.
 リリーはいつもどんな風だっただろうか。彼女は確か、幾らか小柄だった。しかし、元気で、人を見上げるような素振りを見せることなんてまずあり得ないばかりか、世界には私一人しかいない、というような目の使い方をしてさえいたから、例えば彼女の背丈を誰かと比較して、幼く見えるだとか、そういった意見を飛ばすのは全くの筋違いのように思えた。また、彼女の顔立ちに関しても、意識的に見れば、端正で、美しいものであったけれど、どんな比較対象も持っていなかったから、それが本当に可愛い、だとか、綺麗、だとかそういった意見によってまとめられていいものかは良く分からなかった。
 それにしても僕は、朝ごはんを食べるリリーを、「いってきます」を言うリリーを、てくてくと登校中のリリーを、全くと言っていいほど想像することができない。授業中のリリーのことなら少し知っている。決して当てられても答えようとはしなかったし、良く、ぼうっと外を見て満足そうに笑ったりしていた。放課後のリリーもまた想像できない。決して学校には残っていなかったし、集団で夕暮れまで遊ぶなどという学生のようなイベントからは、僕やイワン以上に遠のいていた。僕とイワンはそれを意識的に遠ざけていたが、リリーはおそらく、ただ無関心で、だからこそ、僕らよりも遥かに徹底的であった。彼女の動きは、この街でどう生きれば生きやすいかという考えに基づいた行動ではなく、ただ、今したいことを感情的に実行するだけのようであったから、恐らく世界一美味しい料理が出てきたとして、酷く高い値段を言われたとしても、リリーはそれが食べたかったならば迷いなく平らげてしまうだろう。あるいは、世界一美味しい料理を一通り眺めて、嬉々として、クロッキー帳を取り出すのかもしれない。そう、リリーはよく絵を描いていた。本当によく、まるで僕らでいう他人との挨拶や食事のような必然事項が、彼女にとってのそれなのだと言わんばかりに。学校でいやでも目に付く彼女の生き方は何かと疎まれていたけれど、僕は遠巻きながら、どうしたらあんなに素直に生きることができるのだろうと、ある意味イワンに対しての感慨と幾らか似たようなものを感じていた。
 思えば、夜ご飯を食べるリリーも、寝床に入るリリーも僕は知らない。彼女が刻々と描いている人生の、本当に一点しか知らない僕は、彼女について語る資格なんて何一つないのかもしれないけれど、もしかしたら、自分以外の人間なんて、全部、そんなものかもしれなかった。そして、もしかしたら自分すらも。(続)