Portal 1-2 さよならフロンティア

2.

 課外授業と銘打った「ゴルゴダの丘」への遠足は、それがこの街全体の学校における通例となりすぎているが故に、教員たちはもちろん、生徒たちにまで、一種のマンネリズムを与えている。ゴルゴダの丘と向日葵畑は街の随一の観光地として知られ、また唯一の観光地といってもよく、町民は幼い頃から行き慣れた場所であり、行き飽きた場所でもあった。確かにひまわり畑の美しさと、眼下に潜む大海の果てしなさは、数旬の感動を彼らに与えもした。ただ、反復が異常性を徐々に薄れさせ、しまいには、日常の一枚として何の感慨もなく溶けていくように、景観に内包された感動も徐々に感じ慣れたものになっていく。少年たちが遠足に持つ感慨といえば、ほんの少しの非日常がもたらす一抹の気休めの他に何もなく、その日もまた、さしたる程の期待もなく訪れた課外授業は淡々と進み、僕らは石碑に手を合わせ、ノートと昼食をとり、クラスメイトたちが「全体」を縁取り喧騒を発し始めると、それから遠ざかるようにして、周辺をのんびりと歩き始めたのだった。

 

「転校生、覚えてる?黒髪の」

「綺麗な人だったね」イワンの放つその声からは、興味までもが抜け落ちている。

「そう、名前なんて言ったっけ…。今日姿をみないからさ、どうしたものかと」

「確か、フラニーだったような。ああ、彼女ならさっき、リリーと一緒に向こうへ行ったよ」相変わらず無関心な風にして。

「へえ、イチイの木の方へ」

「そう。リリーはひまわりを描いてるんじゃないかな…」

 

  数瞬。

 

「これ、いつになったら帰っていいんだっけ」

「わからないけど、もういいよ。どうでも」

「夜になったら帰ろうか」

「帰りたくなったら、帰るよ」

「じゃ、僕もそうしよう」

 

 僕らはイチイの木と反対方向へ進んだ。つまり必然的に街へと近づいていくのだけれど、用意された歩道に順ずる事はせずに、大きく蛇行して、何処へ行くのも拒むようにした。同時になんとなく、行くべきはイチイの木と、海と、向日葵畑のある丘の反対側なのだと知っていたけれど、今行くのには、なんらかの準備ときっかけが足りないように思えた。そして何より、僕らは何処へ行ったって、僕らのままでいるのだろうから、ならばいっそ何処へも行きたくないという思いが、行く当てのない散歩の中には、いつだって含まれているのだった。

 僕らの散策はきっかけと必然性がないばかりに、良く、場所のもつ特徴やなんかを度外視することがあった。僕らは銀河鉄道の乗車券を手に入れたとしても、ファンタジーエンに迷い込んだとしても、なんらかのきっかけと、目を覚ますような必然性がなければ、能動的にその世界の美しさを求める事を喜びと思わないのかもしれなかった。

 

「ねえ、やっぱり夜までいようよ」

「はい。」イワンはいたずらっぽく呟いた。

 

 思えば、イワンといるときは、決まって僕の方から話し始めた。案外僕と彼の間にある本質的な何かは、そこら辺にあるのかもしれなかった。(続)