手書きメモ3

 すごく寒かった。物語の色つけ役としての人間と、そして僕だけが街に取り残されたみたいで、主要人物たちはもうどこかに去ってしまったらしかった。どうしたって季節が人肌を恋しくさせる。玉川上水から僅かに吹き上げてくる冷気が心の臓に綻びを与う。誰か僕の私的空間にいて欲しいと思う。温もりが欲しい。不安定で構わない。虚構の熱で構わない。

 けれどそれはインスタントのスープで満たしてはいけない欲望だと知っている。とりあえずの暖かさに助けてもらうことは筋違いだと知っている。侘しい。静かだ。凍える。独りだ。暗い。儚い。こんな感情が渦巻いて物語は、願望と現実のギャップを埋める力を持つのだ。

 青年よ。君はまだ何も書けない。肩の力は入ってないと思う。いざとなったら暫く逃避する準備はできているし、その気になれば人肌が僕を温めてくれるのだろう。人をいいように騙してきた君のことだから。それだからって頼むから、この地平に、もう少しだけ、我慢を。頼む。生きる優先順位を間違えないでくれ。君は表現者だ。人への欲望より先に、自分の僅かな感性を守ってくれ。頼むから。