フクラム国

タルイのブログです

博士とロボットの話

おじいちゃんが一人分のお皿を持ってくる。ミートパイの香りが鼻の先を敏感にさせた。昼にとった子ジカだ。子ジカはミートパイが一番、らしい! ミートパイに手を付ける前に、僕の背中を開けたおじいちゃんはゆっくりと、液体を中へ入れていく。 身体中の歯…

手書きメモ7

彼女はぼうっと空を見ていた。透き通っていて、どこまでも広く、涼しい空。そこには彼女の絵の具で作られた水色がさらさらと載せられていて、僕はその中にすっぽりとくるまる。 胸に溢れそうな「らぶ」を伝えようとしても、ノーフィルターの感情は少し相手に…

キュンってきちゃう言葉しりとり

「しりとりの「り」からね」 「オケイ。超妄想型溌剌系女子高生に任しておいて。「り」ね。『理解できないほど慕っている』」 「普通にキモいのきたな」 「ちっ、ちっ、ちっ。甘いね。「逆に」だよ「逆に」。逆に私なら即落ちるね」 「あー「逆に」ね。おけ…

飯倉さん

飯倉さんは買い物をしている。昨日テレビで春物の野菜の見分け方をやっていたものだから、飯倉さんは得意気にキャベツを手にとってあれやこれやと吟味する。しかし正直なところ、軽い方が美味しいのか重い方が美味しいのか忘れてしまっていた飯倉さんは、と…

中央線快速

高いビルがどんどん小さくなっていく ぐんぐんと遠くなる 次の駅に近づいてみんな降りる準備をする。 でも、一人だけぐんぐんと遠くなるビルを見ている そんな誰かを「何かに浸っている」とか言って 見苦しいと思うのは、はしたない。 言葉遣いの悪い人ばか…

Here Comes The Sun and I Say 12(終)

第12章 深浦:それならそれで、もういい。 夜に四肢が溶けていく気がした。何もかもに忘れられて、この世界の中で、一つの個性を持たない構成物質として融解していくような気がした。それは案外心地が良くて、私は少年の「君が人間的な生物でいたいのなら」…

Here Comes The Sun and I Say 11

第11章 京谷:君の顔が好きだ 全ての赤信号にひっかかり、工事現場に3度ぶつかり、その度に迂回して迷い込んだ知らない道で方向を間違える。悉く何かの強制力が働いていて、目的地に着くのを拒んでいた。少女はずっと小さな寝息を立てて眠っていて、彼女さえ…

Here Comes The Sun and I Say 10

第10章 深浦:長い長い夜が来る 自転車を引く陣野くんの後ろに、はぐれないように付いていく。「げんきー?」と能天気に聞く彼の顔に映る、昔と少しも変わらない純粋な活力は眩しく私の姿を照らす。 「学校?めちゃくちゃ楽しいよ」彼の声は常に何らかの芯を…

Here Comes The Sun and I Say 9

第9章 京谷:巨大な力にさらわれないように 深浦さんのことを思うと、今まで気にしてこなかった沢山のことが思い出されてきた。耳元にある少し大きめのホクロとか、考え事をしている時にシャーペンをトントンとする癖だとか、そんな所を自分が見ていたことが…

Here Comes The Sun and I Say 8

第8章 深浦:翼を生やして飛んで行ってしまうのだろう 存在そのものが飲み込まれるような、そんな夜が来た。家中の漫画を枕元に置いて、眠気が私を捉えるまで、根気強く、展開の早い物語に重い体を没入させる。 ヴァイオリンの上手い人なんて本当に数え切れ…

Here Comes The Sun and I Say 7

第7章 京谷:そうすれば少なくとも 終わりのチャイムが鳴った。今日も放課後の予定は全くなく、同じようなホーム・ルームが機械的に進行し、そして結局、深浦さんは今日も学校に来なかった。帰路に向かいながらぼんやりと空を見る。空の流動に身を任せている…

Here Comes The Sun and I Say 6

第6章 深浦:深海の中でうずくまるみたいに 練習は思っていた以上に捗らない。というより、弾いていることに全くと言っていいほどの充実を感じられない。言いようのない空虚さが身を包んで離さなかった。 果たしてヴァイオリンをすることにどれだけの価値が…

Here Comes The Sun and I Say 5

第5章 京谷:「いてくれたらいいな」という、その程度のもので 雪解けを告げるような朝日が差し込む。よく冷えた学校までの道のりは、未だ溶けきっていない脳みそを使って仮初めの「今日も1日頑張ろう」を作るための時間で、学校についてしまえばいつも「今…

Here Comes The Sun and I Say 4

第4章 深浦:生理的な嫌悪感が止めどなく広がっていく 私の中学校はさして頭のいいところではなかったから、普通にしていれば、成績はいつも上位だった。普通にしていれば、と言ったけれど、その頃の私(今もだけれど)の「普通」が周りの人よりありていに言…

Here Comes The Sun and I Say 3

第3章 京谷:まだはっきりとした自己肯定を味わう 読書を終えるとしばらくの間、書き手の語り癖が頭から離れずに、頭の中で繰り広げられる考え事の全てが、その本の語り口調と似通ってしまうことがある。まるで一度意識した呼吸を気づかぬ間にまた意識しなく…

Here Comes The Sun and I Say 2

第2章 深浦:「自分にはヴァイオリンしかない」とまでいうつもりはないけれど 昨晩の出来事が未だじめじめと全身を侵食し続けていて、練習には全くと言っていいほど身が入らなかった。何をどうしようと、何を弾こうと、その先には本当に何もないんじゃないか…

Here Comes The Sun and I Say 1

第1章 京谷:家に帰るにはいつも橋を渡る必要があった …どこへでもいけるような気がしていた。知らない名前の駅を降りて、見たこともない街まで。ずっとぼんやりと描いていた自由が其処にはあって、様々な秩序を超えたその場所で、自由気ままに歩く。そんな…

そういえばちょうど満月

行動と思索の全てが欲望と名付けられてしまう日が怖い。 特定の誰かに好きという感情を向けることも、何かの役に立とうと思うことも、人を信じることも、ただの欲望になってしまって、誰かに疎まれるのが怖い。誰かに一線を引かれるのが怖いし、誰かの邪魔を…

さんがつのじゅうににち

誰も彼もがどうでも良くなった途端に頑張る理由を失う。自分を守るための「頑張る」を、いつからかどこかに捨てている。 ぬくもりに近い何かが遠ざける世界中の「あなた」との距離は、やもすると届かなくなりそうで 履きなれたスニーカーでぼんやりと歩く 雲…

その先の角を曲がって

さち子は毎日改札口隣の鳥居をくぐる。なんでも神様が祀られているらしい。さち子はぼうっとその場に立ちすくむと目を閉じて大きく息をする。僕はそれを外から見ることもなくみている。まるでこの駅は面白いものばかりでとても君には構っていられないよとで…

村上春樹とクラシック音楽

村上春樹の小説には必ずと言っていいほどクラシック音楽が登場する。そして多くの人は少なからずそこで流れる音楽に興味を持つ。『1Q84』を読んでヤナーチェクの「シンフォニエッタ」をyoutubeで検索する人もいれば、『騎士団長殺し』を読んでリヒャルトのオ…

古本屋

古本屋で抱えきれないほどの本を買ったので懲りもせず未読本が増えた。もう未読本が既読本より遥かに多くなって久しい。人は笑う。僕も笑う。けれどこう、うまく言えないけれど、循環する欲望に瞬時に応えられるような本棚を、できる限り、用意しておきたい。…

又吉直樹『劇場』

自明のことかもしれないが、又吉直樹は物語作家ではない。何故なら思考言語と小説言語の「次元のずれ」が余りにもないからだ。 又吉さんといえば何と言っても『火花』だ。『火花』は主人公が師匠と呼べる先輩芸人と出会い、彼の「伝記」を書きながら触発され…

九井諒子『竜の学校は山の上』

九井諒子という漫画家がいる。彼女の漫画には大きな特徴がある。どの作品も「ファンタジーの新たな視座を模索する」というコンセプトを持っているのだ。羽が生えた天使が学校に通って進路に悩んだり(東京は電線が多くて飛びにくいので留学を考える)、人魚…

向こう側の街

この街に移り住んで半年が経った。 生活には少しずつだけれど慣れてきている。時計塔のことも、魔法の唐揚げが揚がる時間帯のことも、学校のことも、少しずつだけれど、分かってきた。 今日最初の伸びをして、布団からゆっくりと足を下ろし洗面台へ向かう。…

アパート

感情が心から生まれるとしたら、心は一つのアパートみたいなものだと思う。こうなりたいという願いや、どうしても堪えられない欲望や、悪癖など、それらは心の中でアパートの住人となって、各々の部屋で過ごしているのだ。この感情は301号室、この感情は203…

ゆっくりとおやすみをとなえる

僕の世界で見ている「赤」と、他の誰かが見ている「赤」が違う色かもしれない。子供の頃に、そう考えたことがあった。 でもすぐに気がついた。それを証明する手段などないのだ。例えば僕にとっての「赤」が誰かの目には「青」に見えているとして、その違いを…

「君の名は」について

チャゲ&アスカで言うところのアスカの方が再逮捕されかけた話をアスカさんが釈放されてから知った世間離れした僕でも「君の名は」はみた。一度とならず二度見た。新海誠さんのことが前々から好きだった。100円で買った漫画版「ほしのこえ」を皮切りに、「秒…

セーラー服とフランスパン

最近、昼食が必要になると、実家から駅へ向かう途中にあるパン屋さんで買うようにしている。明太子を中に塗ったフランスパンがとても美味しいのだ。こんがりと焼け上がったフランスパンを一口かじると、ふんわりとしたパン生地の隙間から溶けたマーガリンと…

そればっかりはのび太も出来杉君も変わらない

坂口恭平さんは子供の頃に、「この世界にはみんなが同じことをやる「学校社会」と、各々がそれぞれのことをやる「放課後社会」があると気づいた」らしい(『独立国家のつくりかた』より)。現象に名前をつけるのが好きだという坂口さんは、ネーミングセンス…

表面だけを板とパイプでこしらえた城みたいに

作家の中村文則さんが、「純文学というものをたくさん読んだ人には、自分の中に自然と海のようなものが出来上がる。」というようなことを言っていた。そういう海を持った人の書く文章や、成すことは、全て一度その海を通過するから面白く味がある、というよ…

Jimbo’s Lullaby-"children's corner"claude debussy

まだミミが4歳だった頃、寝巻きには大きなゾウの刺繍がしてありました。ピンク色の下地に、丸くかわいげがある、しかし少しだけぶきっちょな形のゾウは、ミミのお腹にしっかりとはりついています。歯を磨いている時も、本を読んでいる時も。しかし、あかりを…

The 1975-Chocolate

レベッカは世界が終わるまでの時間を数えながら、今日もマリファナをチョコレートのように噛む。すぐ其処にある世界の終わりを夢見心地でなぞりながら。 「散歩に行きたい」 「どこへ」 「どっか。私もお前も誰も知らないところ。」 レベッカは憤然とソファ…

少女E

君からの短くて雑な文面に顔がにやけるあたしがいる。多分気分で暇な時だけ、ただ頑張ってる息抜きだとか、疲れた自分への甘えだとか、そう言った逃げる場所としてあたしはいるんでしょうけれど、 そうだと分かっていても、何方もお互いの気持ちの良いところ…

Fastener

あと数分で訪れる、寒さを救う総武線を震えながら待っている。北風は容赦無く肌に残る温度を奪っていく。嗜む程度のステップを踏んで、温度が死なないようにする。タヒチの民に説明してやりたい。イッツァウィンター。これが冬だよタヒチ・ピーポー。 今日は…

The classroom leader of eyeglasses

遠く向こうで、彼女が手を振っている。太陽で薄く白ずんだ視界の、遥か遠く向こうの方で。 きっと、もう「さようなら」と、たったそれだけの言葉が足りないだけなのだろう。日が落ちて夜がくれば、ここが何処だかわからなくなって、きっと、君とすれ違ったあ…

顔を上げれば空が微笑みかけている 正しさや、強さや、大切さを定めることもせずにただ空は、5年前と背丈の変わらない僕を写している この体で短い命を生きること、束の間の一生を借りること、全てを知って見守るように、空はそこに佇んでいる 今まで出会っ…

Impressionism

海が混じり合うように折り重なって、静かに時を刻んでいる。両手を空に伸ばしピンと背中を張る彼女の口元の、太陽を直に浴びた笑みに目が眩んだ。人気のない臨海公園は、やけに近未来的な街灯の均等で果てのない群列や、月の満ち欠けを示す儀式めいたオブジ…

Sunset

忘れられていた公園のブランコを揺らしながら「この世界はもう」と笑う少女の横で、頰を泥で汚した少年は「もし自分が」と、魔法のような虚構の切れ端を考えている。 夕暮れ時に一瞬間訪れた赤紫の空の下で、「ここには何もないね」と笑いながら、それでも二…

All right part 19

単純な退屈に飽きた時には 酷く不器用なステップで 言葉遊びの中を踊る 音楽が解けるように夜を満たすまで 形を与えることの意味を忘れて 無責任に言葉を並べれば 大切を忘れた夜を踊り明かせる 音楽があれば大丈夫と彼はいう。 All right All right 猿が口…

雄弁な社会

世の中には自慰行為が溢れている。 身を剥き出しにした承認欲求と往往にして肩を組み、様々な美辞麗句を並べて作り上げる一時的な絶頂と、先行きも価値もない快楽と。 集団における自慰行為はタチが悪い。 僕らはリーダーを名乗ってイベント全体主義を掲げる…

11/24 切れ端

全てをゼロに戻すような雪が降った。複雑に絡まった人との関わりを、絶え間なく波打つ感情を全てリセットするような雪だった。街は白く染まっていく。白で上書きされていく。人工的に植えられた道路脇の植物も、選挙戦のポスターも其処にはない。意味は白に…

11/10 切れ端

僕は彼女が裸になる所を想像してみた。それは非常に緩やかな速度を持ちながらも、とても好意的に検討することのできる事柄だった。極めて静かに、まるで1960年代のハガキばかりが充実している雑貨屋を何の気無しに覗いた時みたいに。始めに、果たしてそれは…

継続

継続は力なりというけれど、継続以外では力など手に入らない、とすら感じる。 なんらかのものを習慣化し、継続していくと、「気にしなくてもできる」という段階に達する。所作が無意識化する。その現象は、言うなれば、身体のもつ「自然」という状態を開拓す…

まっすぐにしか書けないこと

イチゴジャムの食パンと甘々のコーヒーは、今日もまた生活のねじを巻く。 単調な朝だ。 電線の上で望遠鏡を覗くのは、あの日忘れたはずの女の子。 両手で抱えて、何かを確認するかのように。 重そうに。 僕は、そんな風に未来を覗く彼女の、笑えるくらい不器…

島国のひろがり

空と言われれば、やはり育った街のものを思い浮かべる。 僕にとってそれは 電線とデパートに視界を阻まれた僅かな背景 空が綺麗だなんて ありふれたことのようだけれど 確かに狭い狭い夕空は、今日も感動を生んだ あの空は、果たしてどんな風に広がっている…

色彩は女の子と

君といると、世界はいつだって、カラフルに見えた。 大げさな表現ではない。 色づく。 まるで生きているみたいだった。建物も、道行く人も、工事現場も表札も。 僕は君のことを今でも思い出しながら、こうして文章を書いている。 多分、どんな文章を書こうに…

灯り 1

8月5日は、湖の周りに、蛍が出る。そればかりが頭にあった。 当時小学2年生だった私は、平生夜8時以降の外出を禁止されていた。8月になってからというもの、格好の餌を与えられた少年の想像力は、光筋が暗闇を駆けて行く様を幾度となく思い描いた。部屋に生…

10月の風景

秋を多分に含んだ風は、遠のいていく電車から逃げるように、私の頰へと届く。 2番線ホームにはまばらな人影。特有の透明さをもった声は、おそらくじゃれあう高校生たちのもので、それはまるでわずかに残った夏の手持ち花火みたいに、この味気のない空間にカ…

次のバイト代が入ったら、飯行かないか?

自分らしく生きているという感触が、こんなにも素直に受け入れられるのは初めてだ。 過剰な表現ではない。 「生まれ変わったみたいだ」 それは前の連載のおかげかもしれないし、9月の5日間をパリで過ごしたからかもしれないし、或いはgalileo galileiが解散…