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L'après-midi d'un faune

タルイのブログです

Section6 追い風 決意 小旅行(2)

時間は過ぎてみれば一瞬のことで、振り返ってみれば、其処には、掠れるような儚さが暖かく残っていた。 私の重大だと信じてきた一歩は、踏み出せてしまえば意外と呆気なく、それでも何か確かに、得たものと、失ったものと、届いたものと、見捨てたものがあっ…

Section6 追い風 決意 小旅行(1)

張り詰めた空気がリハーサルを覆って、私たちは静かに最後の確認をする。 「緊張してるのか」 「ああ。悪いか」 「いや、俺もだ。ミズキちゃんは」 「うん。してる」 「なあ、」リーダーの声がする。 「もう、大丈夫だ。大丈夫だ。うまくいく。見せてやろう…

Section5 景色 諦観 最後の信頼(2)

2. 私は、あまり人を信用しない性質で、自分のそんな性格を決して否定するつもりはないけれど、困ったことに自分のことすら、何かと信用していない節があった。そりゃ自分が完璧に信用できる人生なんてあるとは思わない。しかし、何かいつも、一歩を躊躇し、…

Section5 景色 諦観 最後の信頼(1)

1. 自転車を飛ばした先にある夜は、確かに、ここで見るものとは違うのだろう。どこへだって、僕らは多分、行くことができるのだ。何も持っていないということを、知ってさえいれば。 何が僕の人生を苦しめて、何が僕のために苦しんでいるのか、想像するだけ…

Section4 塾 嘘 深海の富(2)

2. 海星先生の話を、どんな人生を送ってきたら、こんなことを怖がらず言えるのだろうと、変な驚きをもって聞いていた。しかし少し経って、もしかしたら自分が唯臆病で怖がりだっただけなのかもしれないと、直ぐに恥ずかしくなったりもして。 生きていて良か…

Section4 塾 嘘 深海の富(1)

1. 「先生、私どこの大学に行けるんですか?」 「どこへだって行けるよ」 「でた、頭いい人はちがうなあ、ほいほい」 「行きたい場所は?」 「うーん、特にはないけれど」 「けれど?」 「普通のところには行きたくないかなあ」 「そうだね。向いてないから…

Section3 学校 可愛さ RPG(2)

2. 聖橋口には既に三人が待っていて、私は心底すまないというように「ごめんごめん」と笑う。 「謝れ」と言うリーダーに身を任せて「スンマセンでした」と謝る私を三人は笑って、橋を渡った先のスタジオへと向かう。途中四人でドクターペッパーを買い、5スタ…

Section3 学校 可愛さ RPG(1)

1. 「いいね」をもらうために、彼らはどんなことだってできるのだろう。 私は別に彼らのことを嫌いだとか、彼らより私の方が賢いだとか、そんな風に言うつもりはないけれど、そして「いいね」をもらうために全力で頭をひねる毎日もそれはそれで面白いと思う…

Section2 古本屋 Bach 夜の漂流(2)

2. 家に帰ればある程度片付いた机に横たわるようにMacが置かれていて、それを開かなければならないと知りながら、それでも逃げるようにヴァイオリンケースに手を伸ばす。 少し気が荒ぶっている、そんな日は意外といい文章が書けるものだけれど、今日ばかりは…

Section2 古本屋 Bach 夜の漂流(1)

1. 一人でいるのは嫌いじゃない。なんだか割と面白くて、その場所は孤独とは何かが違っていている。孤独と一人の違いはなんだ。寂しさの度合いだろうか。でもなんにせよ、ひとりは認識次第で孤独になる。その逆よりも、ずっと簡単に。 吉祥寺には古本屋が、…

Section1 吉祥寺 塾 海の底(3)

3. 何が怖いって、全部変化していくこと。季節も、好みも、人との関係も、止まっていて欲しいと願う間もなく、目まぐるしく変わっていくこと。「まだ、あと少しだけ」「ほんの少し待って」なんて感情が呆気なく季節に飲まれて、置き去りにされてしまうこと。…

Section1 吉祥寺 塾 海の底(2)

2. 「分かるものか」ミズキは少しばかりコミカルに、けれども真剣な顔をしてシャーペンを放り出した。少しばかり空間よりもおおきなその声は僕を強引にこの場所に引き戻す。 「落ち着きたまえ」 「落ち着けないたまえ」彼女のそんな即答は、彼女自身のツボに…

Section1 吉祥寺 塾 海の底(1)

1. ここではないどこかへ、なんて、ありふれた言葉はもう自分で唱え飽きてはいるのだけれど、それでも知らない街へ行きたいと、今もずっと、思っている。見たこともない街の誰も知らない夕暮れや、いつまでも解けることのない靄のかかった風景の中で、捉えき…