明日は雨なんやって。

大学に久しぶりに行く。ロッカーに更新手続しないと中のもの撤去するという脅迫めいた紙が貼られていた。ごめんなさい。

久しぶりの友人と偶然に会う。相変わらずの品のあまりない、くだらない話で笑いあって、すっと別れる。別れのさらさら感がなんともナイス。

家に帰ると明日に向けて母親がカツ丼を作っている。たまごを工夫したらしい。うまかった。

アカシア

花の名前をしらない。冗談じゃないくらい。虫の名前はけっこう詳しくて、でも虫を捕まえるには花ってとっても重要で、そこらへんの怠惰なかんじが、なんとも言えず、自分。

ミモザのことをアカシアというらしい。「ミモザがゆれる〜」とか「アカシアの花が〜」とか、何かの曲の歌詞にあって、全然違う花だと思ってたわ、イメージ変わるわ。新宿にあるレストランで「アカシヤ」ってあったな、あれ、誰と行ったっけ、ちょっとデートっぽかったなぁ。

バイトとバイトの間の移動中。いつまでこんな感じなんだろ、ずっとはやだな。

6割くらいほんとうの日記

 久しぶりに両手ばなしに挑戦する。わりとうまくいく。よどみが清められ終わったみたいな、空気が気持ちよくて何度も手をはなす。息をすれば数メートル先まで吸い込めるようで、じゃあだから、すごい速さで走り抜けたらすんごいことになるゾと思って勢い立ち漕ぎ。自転車は高校生のころ買ってもらったすごく頑丈な高いやつで、おかげさまで全然こわれない。今は線のほそいクリーム色の、「ちょっとそこの湖まで」みたいなのが欲しかったりする。

 街に出て、給料日の次の日で、大きな額のあるうちに新しいくつを買った。デパート5階のABC-MARTからは隣駅のビルが見えた。赤い文字で意味の知らない外国語がひかっていて、なぜか小学生の、塾に通っていた帰り道を思い出して。

 大きめの紙袋にハイカットのコンバース。次は何をしようか、考えているうちに夕暮れ。安い喫茶店にはいって色んな人の短編を一つずつ読む。

 夜になったら、2番目くらいに好きな作家の、あと3ページくらいのところでゆっくりと本を閉じる。

白、あい色、ピンク、橙

 寝ぼけた両眼はネオンをぼんやりと映す。白、あい色、ピンク、橙、丸くてふんわりとした明かり。とにかく掴まっていよう。そうすれば落ちることはない。

 色んな種類のお酒をのんだ、のんだ。宝石館に行ったみたい、キラキラと輝くおいしいお店、沢山のキラキラアルコール。あれも、これも、なんて言っているうちに、よっぱらったもんだなぁ。

 柴崎の歩きに合わせたやさしい振動が心地よい。「起きた?」少しだけぶっきらぼうな声。やっぱり、この状況になれてないみたい。うん、そうだよね、私も。

 どこに向かっているんだっけ。「あと少しだぞ」低い柴崎の声。ハタチをすぎて誰かにおんぶされるなんて、思わなかったなあ。脳みそはちょっぴり痛いけれど、美味しいお酒だったから、気持ち良さの方がずっと、ずっと。

 白、あい色、ピンク、橙、明かりの上にふわふわ浮かんでいるみたい。もう一度目を閉じて、ぎゅっと掴まれば、骨だけかって思うくらい薄っぺらい柴崎のからだ。朝になったらお礼をいったり、謝ったりしよう。

 朝になったら、朝になったら。

Mexico's sunset

「いいか、全部"ゲーム"なのさ。ここにいい例がある。巨大隕石の話だ」

これはヤツがまだ息をしていて、逆に俺なんかはまだ、学習なんてものが価値を持っていると心ん何処かで思っちまってた頃の話だ。

「巨大隕石はあと1日で地球に落下して世界を滅ぼす。それは世界一の頭脳と言われたポークンス博士をはじめとして、世界の識者たちがこぞって同じ結論に達し、匙を投げた命題だ」

彼は生真面目な顔をして話した。いつだってヤツはそうだった。些か過ぎるくらいに。

「ポークンス博士はその朝何をしたと思う」

インテグラルのように曲げた眉毛でヤツはそう問うたのさ。

「さあ、何もしなかったんじゃないのかい」

「そう、それだ。トクベツなことなんて何一つしなかった。博士はコーヒーにそれはもう大層なこだわりがあった。早朝から太陽が高く上がるまで緻密な計算と逞しい感性とでかぐわしいコーヒーを入れていたんだ。地球最後の日、彼は変わらずゆっくりとコーヒーを入れた。これが何を意味しているかわかるかい」

「さてな。逃れられない運命の話かい」

「いや違う。寧ろ逆だな。彼は自由になったんだ」

「どういった意味で?」

「意味なんてない。いいか、この世界は"ゲーム"なんだよ。遊戯でしかないのさ。」

そういって吸い殻を靴裏で丹念に消しヤツは言った。

「俺の言ってることが分かんないなら、それはそれでいいんだぜ」

薄黄色のスカートとにじみ出る灰色

足先に少しの力を入れて、飯倉さんはふわっととびました。春先だからと思いきった、薄黄色の短スカートが内側に空気をふくんで、まあるくひろがって、まるでクラゲみたいに舞いました。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と飯倉さんは笑って、帰り路を丁寧になぞりながら帰ります。まるでいつも同じはずのその道のりが、日によって違う種類の絵の具でぬられているかのように。遠くでどこかの小学校の、下校時刻を告げるチャイムが鳴っていて、彼女の通った道の跡には、ひっそりと近づく1日の終わりが、だんだんと長くなっていく街灯の影を落としていきます。

 もう夜になっていくんだと飯倉さんが気づいた時には、あたりは十分に赤紫の、夜の予感に色づいていて、少しぞわっとして、飯倉さんは思わず、楽しかった気持ちをしぼめてしまいました。しぼまった分のすき間には、すぐに、回線を切ったままにしている携帯のことだとか、どうしても休んだ昨日のアルバイトのことだとか、そんなような、ないがしろにしてきているいくつかの灰色めいた事柄が、どんどんにじみ出てきました。

 家に帰ると、飯倉さんはすぅーっと、小さく、けれど重たさのある息を吐きました。落ち着いてしまわないように、手洗いだとかリュックの中に入っているものの整理だとか、散らばったままの漫画を本棚に戻したり、せわしなく動き回りながら、その動きの中で、ひゅっと、携帯の回線を入れ直します。すると、みないようにしている長文やもう何十件も溜まっているドラマの公式アカウントの通知の一番上に、仲良しの荒北くんから一件、「この曲、いいよ」から始まるラインが入っていて、開けば、youtubeのURLと、最後に、「今日のスカート、かわいかったなぁ……」と、優しく色付いた言葉がありました。

 荒北くんの送ってきてくれた歌を聴きながら、飯倉さんは、台所でルイボスティーを作ります。音楽のゆったりとした速さに身を預けるようにして、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と、呟きました。少しだけ口元を緩めつつ、栗色のお気に入りのカップを大事そうに取り出しながら。

 

https://youtu.be/HAwSqHZ4Z1k

春のよるはねむる前に

ねむろう、と思ったら、まず、わすれないように歯みがきをする。

しないで布団にはいってみても、きまり悪くてけっきょく歯みがきをしてしまう、

そんな自分を知っているので、うごきたくなさに逆らう。

ついでに固形せっけんを泡だてて顔を丁寧に洗う。タオルで拭いたらニベアをつける。両手になじませてから頰をなでるようにつける、ときもちいい。

洗顔でぬれてしまった前髪をドライヤーでかわかしながら、今日をおもいだしてぼんやりする。

ねむくないことに気がついて、好きな人のことをかんがえながら、彼女は苦手かもしれない、感傷的なうたを歌う。

そしたらギター・コードを見ていた携帯がふるえて、友人から連絡がとどく。すぐに返信をして、そのあと、布団にくるまる。

まってみても、友人からの連絡も、誰からの連絡も来なくって、携帯の電源は切って、虚空に向かって、ていねいにおやすみを唱える。

あたまの中には先ほどうたった歌が流れている。ねがえりを打つたびに目が覚めていくような。それでも2月とは違って、ねむれなさはすこし、心地よさを含んでいる。

 

https://youtu.be/lfNRrOkuYqk